ぱしゃり、と水滴が跳ねた。

白い裸身が波紋の発信源となり、僅かに湖面を波立たせる。
だがそれもじきに消え――残ったのは、夜風に身を委ねたままの一人の女性の姿だけだった。


「つめた……」
そう言いつつも、は泉から上がろうとはしない。せっかく訪れた、身繕いのチャンスを棒に振る気は全く無かったからだ。

フェリアに近付いているからだろうか、水も風もイーリスで馴染んだ温度や気候とその顔を変えつつある。それ故に――精霊達の気性にも、微妙な変化が見られた。慣れていないクロム達には申し訳ないが正直なところ、としては楽しみなのだ。

と。幽かに精霊達の声が耳朶を震わせる。

時間も遅く、恐らく誰の耳にも届かない。人に非ざれど、人以上にそれを愛でる観客も居る。
――ならば、それを躊躇う理由は無い。

大きく息を吸い込み、頭に浮かんだ旋律を唇で追って―――


たった一人の歌姫による、深夜のプライベート・コンサートは彼女が小さなくしゃみをするまで続いたのだった。


とある軍師の温泉学(バルネロジー)3


その裏で。