砕かれた日常 U
その言葉を聞いた途端、ふ、とリズの肩から力が抜けた。疑問が解決したわけでも、彼女の言った通り答えが出たわけでもない。
それでも胸の中に蟠っていた何かがストン、と音を立てて填ったような気がしたのだ。
「……そ、だね。」
先送りなのかもしれないが、今なら自らの力で顔が上げられる。きっと自分一人だったら、この思考の迷路から抜け出すのにもっと時間がかかっただろう。きっと彼女はそれですら無駄では無いと言ってくれるのだろうけれど。
「どうぞ、顔を上げてくださいリズ様。今、貴女が憂いを持たれたような事から民を守る為にこそ、我々がいるのですから。」
穏やかなフレデリクの声に、リズは今度こそ本当に顔を上げた。声音と同じ、もしかしたらそれ以上に穏やかな表情に見つめられ、慌ててうん、と頷く。
「そうだよね。その為に私達がいるんだもん。うん、大丈夫。私頑張る!ありがとう、さん、フレデリク。」
突然元気になったリズに、どういたしましてとが微笑み、フレデリクが恭しく頭を下げる。
「そうそう。お前はいつも通り能天気な顔でいろ。小難しい顔なんか、似合わないからな。」
「うん、そだね……って、ちょっとお兄ちゃん!それじゃ私が馬鹿みたいに聞こえる!!」
「そうか?」
からかい混じりの兄の声に、むきー!と憤る妹の声。仲の良い兄妹だと目を細めたの前を、ふわりと小さな影が横った。
おや、とが思ったのとほぼ同時に、リズはその頬を撫でた優しい風にぴた、と動きを止めた。
「
あの時ほど明確では無いものの、人ならざる気配に――何より、頬に触れた慰めるような感覚にリズは目を丸くした。
「……随分懐かれましたね。」
「え?え?そ、そうかな?」
そうは言われても、あまり実感が無いリズである。しかし人ならざる者達の声を聞き姿を見るの目には、彼らが少女の周りをまるで労わるように囲み飛んでいるのが容易に見て取れた。
「ええ。こんなこと言われると気分が悪くなるかもしれませんが、相性は悪くないと思いますよ。」
「だ!か!ら!そんなことありません!!」
有無を言わず否定するリズに、失礼しましたと苦笑して目を細める。
「俺には全然見えないが……」
「クロムさんも相性は悪くないと思いますけど、如何せん魔力が圧倒的に足りてませんから。見たり聞いたりするのは、少し難しいかもしれませんね。」
「相性も関係があるのですか?」
「あると思いますよ。彼らに直接聞いたわけではありませんが。人に個性があるように、彼らにも――例えば同じ
人間でもどうしても馬が合わないって人や、何でか知らないが馬が合う、って人の一人や二人、居るでしょう?と尋ねれば、そんなものなのかとクロムが首を傾げる。
「
なるほど、とリズが頷き、さっぱりわからんとクロムが渋面を作る。
「魔力が上がればお前と同じものを見れるのが、どうして一緒なんだ?」
「一緒、というわけではないんですけどね。あくまで素養の一つ、と言うだけで。飛びぬけて魔力が高くとも、見えない・聞こえないって方も居ないわけではありませんし。」
「つまり、魔力って言うのは意思疎通の為の一つの手段――伝達方法なわけでしょう?」
と、これはリズ。流石に魔法理論の座学を修めているだけあって、話が伝わり易い。
「そうです。……そうですね、クロムさんで例えて言うならば、剣そのものとクロムさん自身が培った熟練度、そして元々持っている剣の筋、と言うところでしょうか。」
「つまり剣が精霊で、熟練度が魔力、筋が素質……気質、と言ったか?に当たるわけか。」
そう言うことです、とが頷く。あくまで私の持論ですが、と一つ前置きをして更に続けた。
「目に見えるものと、そうでないものとがあります。ですがどれ一つが欠けても剣士としては、今一つ実力に決めかねますよね。それと一緒で、どれかが突出してても駄目なんです。ある程度均等に、けれど不足無く。魔力と言う、目に見えない――言ってしまえば、個人の感覚に左右されがちなものをそれと測るのには、矛盾してはいますがある程度の力量が必要ですから。」
なるほど、と身近な例えを持ち出されて漸くクロムの眉間から皺が消えた。
「お前の話の方がよほど興味を引くし、分かりやすいな。教養の一環として聞いた魔法理論のことなんか、殆ど頭に残って無いぞ。」
「それもそれでどうかと思うよ、お兄ちゃん。」
「クロム様、それでしたら再度座学の手配をいたしますが……」
「いや、いい。しなくていいぞ、フレデリク!必要になったら、に聞く。な!!」
あんな退屈な時間二度御免だ、とばかりに意気込むクロムにがぷっと小さく吹きだす。その当時のクロムが容易に想像できてしまって、笑いが止まらない。
「笑うな、。」
「す、すいません……つい……」
軽く浮いた涙を拭いながら、クロムに謝る。じっと送られる恨みがましい視線に、尚更笑いが誘われるがそこはそれこれ以上笑っては身の破滅とばかりに下っ腹に力を入れる。
「……じゃあさ、さんは魔法って何だと思う?」
「?魔法、ですか?」
ん、と頷くリズの顔は真剣だ。
「……あのね。」
耳貸して、と傍らまで近づいてきたリズに、かかっていた髪を耳に掛ける。耳打ちされた内容はそれ程驚くべき内容ではなかったが、少女の身としてはやはり決心の要る決断だったのだろう。なるほど、と頷いたが居住まいを正した。
「……変かな?」
「いいえ。そう言うことでしたら、必要ですし。ですが、そうですね……」
「?なんだ?」
「リズ様?さん?」
頷き合う女性陣に、怪訝な表情をするのはクロムとフレデリクだ。だが、わざわざ耳打ちをしたリズの意志を尊重しは口を閉ざす。
「女の子同士の秘密です。」
「どう関連するんだ。」
即座に入った心配性のクロムの突っ込みに、女性は謎多き生き物なんです、といまいち整合性に欠けた、だが有無を言わさぬ理論で応戦する。
「つまり、リズさんはあまり座学の内容に納得してらっしゃらないんですね?」
「ん、と。納得って言うか、理論は理論として納得できたんだけど……」
ああ、と歯切れの悪いリズに頷いてみせる。
「発動する仕組みは納得できたけれと、魔法そのもの……根源、と言うべきでしょうか。それに納得がいかなかった?」
「うん、そう!何で分かるの?」
疑問そのものに納得がいっていなかったので、上手く伝わるかどうか不安だったリズが小さく驚く。
「諸説ありますが、正しいものは未だに定義されていませんから。大部分が感覚でしか捕らえられないものを、ひと括りにしようって方がどちらかと言えば無茶な気がしますけど。」
「確かにな。講師だって自分の経験や感覚の上でしか説明できない。それを理解しろ、って方が確かに無茶だ。」
「感覚の共有……先ほどさんがされた、あれですか。」
そんな大袈裟なものじゃありませんよ、と苦笑しリズに向き直る。
「あくまでも私の持論だと言う前提で聞いてください。」
うん、と頷いたリズに手持ちの魔道書を取り出したが、軽くページを開く。
記憶は無くとも、『知識』はしっかりと残っている。ある意味この知識が過去と今の自分を繋ぐ唯一の証だった。
「魔法の発動過程は属性が違えど一緒です。魔道書を用い、詠唱、そして発動に至る。これについてリズさんの先生は何と仰ってましたか?」
「魔道書通りの詠唱で魔力を高め、精霊を使役・拘束して発動させるだったかな。何か色々他にも言ってたけど、要約するとこんな感じ。」
「ああ、なるほど。一般的な通例ですね。」
理論としては最も一般的な見解である。恐らく魔法理論を齧ったことのない一般人であっても、答えられるような凡例的回答とも言える。
「過程的には同じですが、私の見解は全く違います。くどいようですが、これは私の私見です。そこだけは忘れないで下さいね。」
「うん。」
神妙に頷いたリズに、何かを思案するように口を開く。
「……そもそも、私は精霊を使役するなど、一度たりともしたことはありません。」
「?どういう……」
「使役、という言葉の意味はわかりますか?クロムさん。」
「何かを、他者にさせるというあれか?」
「そうです。狭義であれば、力のあるものが自らより弱いものを使うとも言います。それを人と精霊の間に当て嵌めたものが、一般的な魔法理論です。」
「自らより弱いものを……」
興味はあるのだろう、クロムに視線を移動させたが答える。
だがの言葉に言い表せぬ不快感を覚えたのか、クロムの眉間にはくっきりと皺が寄っていた。
「これは私が精霊を見、その声を聞くことができるからなのでしょうけれど、人より精霊が弱い、拘束するなど考えたこともありません。
いいえ――考えるだけでも痴がましい。」
ぱちり、と応えるように焚き火が小さく爆ぜる。が
「精霊は目に見えないだけで、私達より遥か太古の昔から存在しているのでしょう。かつて人はその姿無き隣人たちと共生しながら、時を歩んできた……」
「かつて?」
「知識として残っているだけですが、私のように精霊の声を聞きその姿を見ることのできた人達がいたという伝承があるでしょう?」
「星の声を聞き、大地と語らう……今はもう、その名前すら忘れさられてしまった一族ですか。」
「そうです。彼らが本当に居たかはともかくとして、精霊の存在を知っていた者が確かに居たんです。
逆説的ですが、
認識の違いこそあれ、魔法とは精霊の力を借りて発動するものなのだから。
「ですから、私にとって精霊――いいえ、魔法とは彼らの力を借りて行使するもの、あくまで対等である彼らと私の間での、力のやりとりだと思っています。」
「んとさ。じゃあ魔道書はさんにとって、どういうものなの?」
「そうですね……一番近い言葉は、触媒、でしょうか。魔道書は彼らに私の意志を伝える為に用いる触媒、詠唱は触媒に対価たる魔力を伝えるための伝達手段。」
「魔力が対価?」
「己の力を全く支払わず、精霊の力のみを借りるなんて不公平でしょう?最も、彼らがその対価たる魔力をどう使っているのか迄は分かりませんが。リズさん、貴女の使うライブの魔杖も原理は同じではないんですか?」
「うん。そう……だね。誰が揮っても杖が力を発揮するわけじゃないし。」
「攻撃魔法と回復魔法が……同じ?」
首を傾げるクロムに、が原理は、ですよと微笑みながら答える。
「力の方向が違うだけです。ライブの魔杖はその力の根源たる宝珠に自らの魔力を翳し当てることで、対象者の治癒力を高め傷を癒す……」
「あくまで治癒力を高めるだけだから、病気には効かないしあんまり重傷だと返って悪化させることもあるし……杖のそのものの効力が高い分だけ、対象の負担になる体力を軽減できはするんだけどね。」
「さんは杖はお使いになられないのですか?」
「適性が無いんじゃないんですかねぇ。せいぜい凶器にするのが精一杯です。」
凶器、と聞いたリズが目を丸くする。確かに華奢な造りではあるが、結構頑丈だ。
「魔力の方向を攻撃に向けるか、回復に向けるかの違い、ということか。」
「そう言うことです。ここで精霊の話を絡めるとまたややこしくなりますから、とりあえず割愛しますが。」
「ん、今度、ミリエルがいる時にでも一緒に聞かせて。」
「ミリエルさん、ですか?」
「あぁ、自警団のメンバーで魔道士だ。たぶん気が合うぞ。」
「?」
首を傾げるに、会えば分るとクロムが苦笑する。むしろミリエルに一方的に気に入られる可能性の方が高い。
「はぁ……まぁ、それはいいとして。結論的に言えば、私にとって魔法と精霊は均しく同じ、彼らの力を借りて行うもの……で、納得していただけましたでしょうか。」
「うん。教わった理論より、よっぽど納得できた。」
「……きっと納得がいかなかったのは、リズさんが精霊と相性がいいせいでしょうね。無意識下で彼らの存在やその力を感じ取っていたからこそ、違和感を持った。」
「そうかな。……でも、そう考えるとさんとその先生の力の差って言うのかな。が、全然違うのにも納得できる。同じサンダーでも威力があんなに違うなんて、私思わなかった。」
「そうですか?魔力の差や、置かれた環境の差と言うものもありますから、一概には言えないと思いますが……」
「誰だって上からものを言われるのと、同じ位置から頼まれるのでは態度に差が出るだろ?それと同じことだと思うぞ。」
シンプルなクロムの感想に、なるほどとが頷く。小難しいことを考えるのが苦手だと公言する割には、こうして時々恐ろしいくらい明確に物事の本質を言い当てる。本人にそれを言うと、また本能のままに突っ走りそうなので決っして口には出さないが。
「理屈を理屈として解することも、また魔法を扱う上では大切なことです。理解の及ばぬ力は力に振り回され、周囲をひいては自らにも滅びを齎す……そしてまた、心で感じたものを信じることも同じように大切でしょう。心なき力は、力無き心と同様の罪悪です。それさえ忘れなければ、リズさん、貴女はきっといい術師になれますよ。」
「うん。ありがとう、さん。私、いつかさんにそう言ってもらえるように頑張る!!」
意気込むリズに、が微笑む。簡単な道のりでは無かろうが、その意志のあるなしでは得られるものがまったく違う。
「あれ?」
急に動きを止めた妹に、クロムがどうしたと訝しげに尋ねた。その視線を追うと、の――正確には、その膝に置かれた魔道書に視線を留めている。
「ん〜〜と、何かね、さっきから
ぱららら……と風に煽られる魔道書は、恐らく何らかの催促だろう。人に似て非なる小さな者達が、の周囲を飛び回っているような気がするのだ。
「だ、そうだが。?」
何があった、と尋ねるクロムにいえ、とは何故か言葉を濁す。
「そう言えば、さんは終始彼らの声が聞こえているのですか?その……何と言いますか、煩くはないのでしょうか?」
「終始、と言うわけではありません。そうですね……例えるなら町の雑踏で、他の人の取りとめのない会話なんか耳に入ってこないでしょう?あんな感じと言えば近いでしょうか。意識しなければ、その声をしっかり把握することはできません。」
「なるほど……」
言われてみればと納得顔のフレデリクが頷き、リズは半眼になりながら必死にその声を聞きとろうとしている。
「……なんだろ。何か、言って……ほ、うき?違う。きら……うめ?違う、う〜〜〜ん……」
「『星が綺麗、歌って。』じゃありませんか?」
「そっか!歌って、運命の子、だ!……運命?」
「……彼らは時々、私をそう呼ぶんです。理由は尋ねても教えてくれませんが……彼らの声を聞けるからこそ、そう呼ばれてるのだとは思うんですが……」
それとも、と言葉を切ったは寄ってきた
それでも彼らは黙して語らない、が知りたい事は何一つ。
「空が曇っていたら歌わないのか?」
「……いえ、そういう訳では……でも、そうですね。歌うのなら、星空の下が一番いい。」
ふと頭上を見上げ、漆黒の空に瞬く星々に束の間の意識を委ねる。
理由を――答える必要はないだろう。
「………ん?」
と、何故かやけに視線の圧力を感じた。意識を頭上から周囲に戻せば、クロム達の視線が自分に集中しているでは無いか。
「………」
「………」
「…………」
特にリズの視線が痛い。期待に目を光らせて、を見ている。
焚き火を挟んで真正面、クロムの視線も同様だった。
「………」
目は口ほどにものを言うとはよく言ったもので、暫く無言で抵抗を貫いていただったが三方向から向けられる圧力に、やがてがくりと肩を落とした。余計なこと言わなきゃよかった、と思うも正に後の祭りだ。
「……あんまり、期待しないで下さいね。今まで別に誰に聞かせるわけでもなかったんですから。」
「うん!」
そう言いつつも、リズの表情は期待で一杯だ。焚火の照り返しを受けただけではなく、その灰青色の瞳がキラキラと輝いている。
あぅ、と迂闊なことを言った自分と言わせた
そして―――紡がれる、静かな旋律。
「………」
子守唄を思わせる歌詞と旋律、今までクロムが聞いたことのない歌だった。高く、低く、聞く者の心に染み入る不思議な声。
或いは安らぎを願うもの、或いは希望を讃えるもの。歌詞は甘く優しく、それ自体が癒しの力を持っているような。
その旋律に合わせて記憶の淵と意識の間を揺蕩う、繊手の誘い手がクロムの思考を柔らかな場所へと誘っていく。
耳を澄まし、心を沈め、もう間近まできているそれに身を委ねようと―――
「……クロムさん?」
「!」
小さく名を呼ばれ、はっとクロムが我に返った。焚火の向こう側で、歌い終えたがこちらを窺っているのが見える。
「あ、いや…………」
「はい。」
何でしょう、と尋ねるを前に焚火のせいではない熱さが顔を染めて行く。距離がある分、気付かれてはいないと思いたい。
「その……聞いたことが無い、歌だったな。」
「そうですか。私も、誰から聞いたとかは覚えていないんですが……でも、歌そのものは覚えてました。きっと昔、誰かに。同じように歌って貰ったんでしょうね……」
自然と口が紡いだのだと言うに、クロムはそれ以上かける言葉が見つけられないでいた。歌に誘われるまま眠りに落ちそうだったなどと、まさか子供ではあるまいに。
「……リズ様?」
訝しげなフレデリクの声に、はっとその方を見やれば抱えた膝に頬を預けるようにして眠りこけている妹の姿が。自分よりもよほど本能に忠実だった妹に、羨ましいのかクロムの口から複雑な苦笑が漏れる。
「子供か、こいつは。」
「色々とあって疲れたんですよ。……今日はこのまま、寝かせてあげましょう。」
も状況に気付いたのだろう、苦笑しながらリズの傍らに寄りクロムと共にその身を負担が少ない形に横たえる。心得たフレデリクが装備の中から上掛けと、小枝を集めて作ってあった簡易の枕をそっと当てた。
「と……その、。」
微笑みながらリズの寝顔を見ていたの名を呼び、振り向いた彼女の表情に再びう、と言葉に詰まる。それはあの、戦場で見せる表情とは全く別の――そう、まさしく女性のそのものであったから。
「?クロムさん?」
「あ、いや……その。歌、上手いんだな。驚い、あ、いや、その……」
「ありがとうございます。」
しどろもどろになりながら言葉を紡ぐクロムに、が嬉しそうに微笑む。
実際、誰かに聞いてもらうつもりなど無かったからこそ、クロムの称賛は素直に嬉しかった。
「ぅん〜〜〜〜」
「!?」
そんな二人の声がうるさかったのか、眼下のリズが僅かなうめき声を零し寝返りを打った。
咄嗟に口を塞いだクロムとが顔を見合わせ、共に破顔する。
そろそろ夜も更けてきた、耳の奥に残る歌を枕にこのまま睡魔に身を委ねるのも悪くないだろう。フレデリクにも視線で合図し、今日はもう休もうと宣言する。
と、先ほどの位置まで戻ろうとしたが何かを思い出したように懐を探り始めた。程無くして見つけた目的のものを眠るリズの傍らに置き、その眠りを妨げぬように小さく囁く。
「……お休みなさい。どうか、良い夢を。」