神剣闘技 ]T


。」
フラヴィアを見送って暫くした後、事態の説明を求めるべくクロムは唯一事情を知っているであろう者の名を呼んだ。

「分かってますよ、クロムさん。」
無論話すつもりはあった――それが凡そでしかないとしても――が軍主の求めに応じ、改めて室内を見渡した。浮かぶ各々の表情で、どの程度を予測しているのか――そして、どの程度話すべきかと思考を巡らせる。

「――今回のような催しには、程度の差こそあれ金銭が動きます。」
「は?」
切り出した話の角度にそこかしこから、疑問符が飛ぶが構わずは続ける。

「街中の小悪党が仲間内で賭ける小金程度なら私もフラヴィア様も目くじらを立てるつもりはありませんが、組織だった、それもその為には不正も介入も厭わない輩であれば話は別です。全力かつ迅速に叩き潰す必要がある。」
「……もしかして、昨日の外出って。」
「はい。実際どの程度の規模の組織が動いているのかを知りたくて。」
!?」
「それで結果は?君のことだ。手ぶらで帰ってくるなんてことは、まずあり得んだろうけどね。」
現場に置き去りにされたソールと人の悪い笑みを刷いたヴィオールが尋ねれば当の本人は全く悪びれず肩を竦めながら答えた。

「私見ですが、いくつか組織だったものが関与しているかと。」
「まさか、これから動くつもりかい?。」
「それも悪くないですが、流石に大事の前ですから。それに、これはフェリア国内の問題。最初からフラヴィア様にも、身内の尻拭いまでするつもりは無いと申し上げていますし。」
確かに言っていたな、とリズが納得したところででは、とフレデリクが続けた。

「先程のは。」
「……目先の利に眩んだ鼠です。城内に潜んでいることは簡単に読めましたので、罠を張らせて頂きました。」
「ん?罠?」
「この会議のことですよ、ヴェイク。だから、クロム様は朝の耳目のある中で会議の旨を告げられた――こんなところでしょうか。」
「流石クロム様……!」
ミリエルがそう説明すれば、なるほどとヴェイクが頷きスミアが感嘆の声を上げる。
そんな背景など全く意図していなかったクロムのどこか落ち着かない様子を視線で制し、は続ける。

「だからこそ結界は張らず、カモフラージュ用の作戦をそのまま聞かせていたんです。先程の鼠がどこと繋がっていようが、東側(こちら)の情報が手に入れば報告をするでしょう。その行く先は私の関知するところではありませんが、西であれそれ以外であれフェリアそのものに貸しができたことに変わりありません。我々が勝とうが負けようが、フェリアに譲歩させるだけの強みには十分なり得ます。」
さんて、本当に頭いいんだね……」
一連の謀事がほぼこの女軍師の描いた筋書通りに進んでいるのかと、リズが感嘆の声を漏らした。

「恐れ入ります。ですが、これが私の役目ですので。」
「確かにおかしいとは思ってたんだけど。それで、もう鼠はいないのかい?」
「はい。少なくとも、我々の話を盗み聞くことのできる範囲内には。念のため、結界は張っておきますが。」
ソワレの疑問に答えた途端、を中心に緩やかな風が巻き起こった。

「……よく分からんが。盗聴の心配は、もう無いのか?」
「ええ、クロムさん。では、その心配が無くなったところで本題に入りましょう。」
「ん?真っ向からぶつかるんじゃねーの?」
「ですからそれは先程(ブラフ)だと言ったでしょう、ヴェイク……」
そうなのか?と首を傾げる男に溜息を吐き、ミリエルがどうぞ進めて下さいと先を促す。

「先程言ったことも、間違いではありませんが。策を練る余地があるのなら、やってみる価値はあります。」
「下手な小細工は逆効果なんだよね?」
「ええ。ですから、下手でない上策を張るなら十分効果は狙えますから。」
ソールの意地悪な問いに軽く肩を竦めたが答えれば、彼の顔に苦笑が浮かぶ。屁理屈も立派な理屈だと、堂々と言ってのける彼女には敵わないなぁと呑気に考えながら。

「先程も言いましたが、西側の選手は全部で九名。いずれもフェリア西王の直属と言われる程の猛者とのこと。――その中で、一名人員の変更がつい最近あったそうです。」
「つい最近?」
「ええ。私がフラヴィア様に確認した時点で、報告は上がって無かったようですが――西側の隊長格に変更が、申請締め切り直前にあったそうです。」
「何故だ?」
フラヴィアが知らなかったことや、が強調した時期的な懸念を尋ねれば彼女も心得たように頷いた。

「前者に関しては意図的なものでしょうが、後者に関してはご心配不要かと。……どうやら、流浪の剣士と出場予定だった選手とが一騎討ちをし、流浪の剣士が勝ったそうです。」
「流浪の剣士……」
流石にあの短時間では名前や容姿までは調べられなかったが、まだ若いその剣士はその細腕と流れるような剣筋とで勝利をもぎ取ったそうだ。

「その彼を含めて、九人。剣士、アーマーナイト二名、魔道士二名、戦士四名……」
の手が、呟きと共に白い駒を遊戯盤に配置していく。(キング)(ルーク)騎士(ナイト)僧侶(ビショップ)兵士(ポーン)と。

「対しての我々ですが。」
そして、が手に取ったのは黒の王。彼の駒を白の王と垂直の桝目に置く。

(ルーク)騎士(ナイト)僧侶(ビショップ)兵士(ポーン)・・・・・・」
次いで馬を模した駒を王の右隣に一つ並べ、残った二体は一体ずつ左右の端に。月を模した駒は一つ、王の右隣に在る騎士の更に右隣へ。同じく一体の城を模した駒は左端の駒の右隣に置き、そして最後。単純な形を模した駒を、開いた王の左隣へ据える。

「……さん、七体しかないよ?」
不思議に思った者を代表してリズが、そう口を開けば嫌な予感を覚えた数名の視線がに集中する。


「そう。確かに出場上限人数は九人。ですが、私はただの一言も。九名全員を出す、とは言った覚えはありません。」
「そ、それって……!」
「ええ。今回も、出撃メンバーは限定させて頂きます。これはクロムさんもご承知の事です。」
ちら、と視線を移せばクロムは心得たように頷いた。最もここまで人数を絞るとは聞いておらず、彼が懸念したのは唯一人のみの参加だけであったのだが。
咄嗟に吹き上がりかけた不満を軍主の首肯一つで封じ込めたは、盤上に腕を伸ばすとその中から一つの駒を手に取った。

「まずは、クロムさん。」
言って、渡したは黒の王。彼は難なく受け取り、頷いた。

「フレデリクさん。」
王の右隣に在った騎士の駒を、腹心たる彼へ。

「ソールさん。」
右端の騎士の駒は、青年騎士に。

「ソワレさん。」
真逆の騎士の駒を、女性騎士に。

「ヴィオールさん。」
彼女の隣、城の駒を射手に。

「ミリエルさん。」
右翼の月の駒を、赤髪の魔道士へ。

「―――最後に。」
最後に残した駒。最弱にして、最強の駒にもなり得る単純な形の駒を。

「私。」
王の左隣の駒に在った兵士の駒を、自身が握り締めた。


「――この、七名で挑みます。」

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